最近「UXデザイン」というキーワードを耳にする機会が増えてきました。ほぼ毎日のようにUXデザインに関する記事がリリースされていたり、UX関連の書籍も書店でよく見るようになりました。
UXデザインは端的に言えば、ユーザー視点で体験を設計すること。マーケティングやデザインの関心は、ユーザーの心を捉える「体験」をいかに創り上げていくのかにシフトしています。
ですがUXという言葉が先行するばかりで、人や企業ごとによっても捉え方が異なる場合もあり、具体的にどのようなことなのか疑問に思う方も多いかと思います。
そもそもどうして今、UXが注目されているのでしょうか?
そもそもUXデザインとは何なのでしょうか?
僕が現在働いているスタートアップ企業でも、UXデザインのプロセスをいかに組み込み、成果を上げていくのか、日々試行錯誤していたりします。
そこで今回はUXデザインの基本的な知識と事例、またUXが重視されるようになった理由や背景などをまとめて振り返っていきたいと思います。UXに関心がある方はぜひ参考にしてみてくださいね。
そもそもデザインとは何か?
そもそもデザインとは何なのでしょうか?ただ良い感じの見た目にすることだと思っていたり、自己表現を追求するアートと勘違いをしていたりする人も多いですよね。
Wikipediaでは、デザインを以下のように定義していました。
形態に現れないものを対象にその計画、行動指針を探ることも含まれ、就職に関するキャリアデザイン、生活デザイン等がこれにあたる。
参考:Wikipedia
つまり、デザインとは一言で言えば「課題解決」のこと。デザインとは表面を美しく見せる行為ではなく、人の生活を豊かにするために課題を発見し、 解決のための思考とそれを実践することを意味します。
ちなみに、design、Design、DESIGNもそれぞれ違う意味が定義されている場合があります。それに関しては以下btraxの記事も参考にしてみてください。
design, Design, DESIGNの違いを知っていますか?
デザインの範囲
デザインは課題解決することなので、その対象はとても幅広いことになります。広義のデザインと狭義のデザイン(例えばデジタルデザイン)を見ていくと、以下のようなイメージとなります。
・建築デザイン
・コミュニケーションデザイン
・都市・環境デザイン
・社会問題(戦争や貧困)を解決するデザイン
・ビジネスデザイン
・製品デザイン
など
・ゲームデザイン
・アプリデザイン
・映像デザイン
・出版
・プロダクト
・広告
・サイネージ
・IoT
・VR/AR/MR
など
このようにデザインの対象は広大で、その意味において見た目のデザインを作るスキルだけではなく、課題を発見し、解決(ソリューション)することがデザインには期待されているのです。
UXデザインとは
デザインについて何となくイメージができたところで、ここからが本題です。
UXは「User Experience」の略で、ユーザー体験のことを意味しています。
UXとはユーザーの体験そのもの、ユーザーの個人的な主観の集合とも言えます。よく製品やサービスといった「モノ」ではなく、それを取り巻く環境という「コト」のデザインと言われることがありますね。
つまり「UXデザイン」とは、ユーザー体験(UX)をデザイン(設計)すること。ほんとうに満足してもらえる、使いやすいプロダクトやサービス・商品を提供し、使っていて嬉しい、楽しい、使い続けたい、そのような気持ちにさせることはもちろん、サービスを利用する前からの接点づくりから、サービス利用後のユーザーの体験まで含めた、サービス・プロダクト全体の体験を設計することを意味します。
2010年に公開されたUX白書によれば、UXの定義として、商品・サービスを使っているときだけでなく、その前後の時間の中にもユーザー体験が広がっているとされています。サービスに触れていない前後の時間や、サービスを利用していく中で蓄積される記憶までもUXの一部として定義されていて、サービスや商品はその一要素に過ぎないということになります。
アクセス解析やWebサイトのデータ分析だけでは、サービスの利用前後も含めたユーザー体験全体を把握することが難しいということになります。
ユーザーの体験全体をデザインすることの重要性
ユーザーにはそこの体験に至るまでに様々な過程があり どんなに部分的に高めても、全体の満足には決して繋がりません。
例えばAISASUモデルを見てもわかるように、UXでは、認知し(Attention)、興味を持ち(Interest)、検索し(Search)、利用し(Action)、満足して口コミで広がる(Share)、これらの体験全体を最適化する必要があります。
ユーザー体験をデザインすることは、まさにサービス全体をデザインすることそのものなのです。
UXデザインの実現のためには、ユーザーのインサイト、例えば行動や思惑、その背景などについて徹底的に追求し、仮説と検証を繰り返していくことが必要になります。
デジタルの文脈におけるUXデザイン
デジタルデザイン業界でも、見た目のデザインをするだけでなく、サービス全体を考慮し、わかりやすさ、使いやすさを考えられるデザイナーが求められています。
デジタルの文脈では、ユーザーがWebを使う前から使ったあとまでを考える手法なので、UXはWebサイト内の使い勝手にフォーカスしたUI(ユーザーインターフェイス)やユーザビリティよりも広範な概念であり、それらを内包する概念です。
UIはあくまでWebやアプリの画面周りのことを指していて、人がサービスやプロダクトと触れ合う接点ではありますが、体験全てを指しているわけではありません。
UI/UXと言われることもありますが、これはスマフォのアプリではUIがUXに与えるインパクトがかなり大きいため、このような表記を使うケースが増えたようです。UI/UXという場合は、ユーザビリティまでを指していることが多く、人によってUXの認識が異なる場合があるので注意が必要です。
UXという言葉を「いい感じで使いやすいUIやフローをつくること」の意味合いで使われ、よく使いにくいUIのことを「UXが悪い」などと言うことがありますが、それは本来のUXの言葉ではありません。
UXを構成する要素としては、以下の「UXの5階層モデル」が参考になります。UXには、(1) 表層、(2) 骨格、(3) 構造、(4) 要件、(5) 戦略 の5段階の要素があると定義しています。
Photo by :2016.uxdaystokyo.com
・骨格(Skelton): 利用者が理解しやすいように画面に表示される情報の優先順位や配置の設計
・構造(Structure): 様々な操作を経て目的の情報や機能へ辿り着くようにするための全体構造の設計
・要件(Scope): 利用者の目的を満たすために必要な機能やコンテンツを設計
・戦略(Strategy): サイトやアプリの目的は何か、そして利用者はそれを使うことで何を得ることができるのかを設計
モノではなくコト(体験)の時代になっている
ビジネスの文脈でも顧客体験の重要性が叫ばれていますよね。ユーザーはサービスをただ消費するのではなく、体験そのものに価値を見出すようになっています。例えば最近鎌倉でレンタル着物屋が増えているようですが、これらも鎌倉を訪れる人がただ観光や消費をするだけでなく「鎌倉でしかできない体験」を求めているからこそなのではないかと思います。
こうした中、様々な企業がモノではなくコト(体験)を重視した商品・サービス展開をしていますので、いくつか例を見てみましょう。
事例1:スターバックスはコーヒーを売っているのではない
普段よく行くカフェとして挙げられるスターバック。スターバックスはコーヒーを売っているように見えますが、本当に売っているのは「第3の場所」。サードプレイス、つまり「家と職場以外の中間の居場所」として自身のコンセプトを位置づけています。
飲み物だけではなく、精錬された店員、綺麗な内装やオシャレな家具に囲まれた空間で、リラックスできるような体験づくりを重視していたことが、スターバックスが躍進した大きな成功要因だったようです。
事例2:AmazonのDash-Buttonボタン
Photo by : Amazon
Eコマース大手のAmazonは、日用品をワンプッシュで注文できる買い物ボタンである「Dash-Buttonボタン」を展開しています。指サイズのハードウェアで、洗剤、飲料など、約30種類以上の特定のブランド・商品と紐付けられています。
ユーザーは利用頻度の高い商品のボタンを5ドル程度で購入し、必要になったらボタンをワンプッシュするだけで商品が発送されます。またスマフォを使えばキャンセルも容易。顧客体験・接点を日常に溶け込み上手く強化している事例でしょう。
事例3:店舗でのよりパーソナルな顧客体験
小売店では店内のセンサーやカメラによる顧客動線をリアルタイムに分析し、よりパーソナルな買い物体験を提供するアプローチも増えています。顧客の動きに合わせて、場面や商品に合わせて提案をしたり、顧客が商品に近づいたら専用のアプリでクーポンを発行したり、またアプリで店員を呼び出せるなど、小売の現場でも顧客体験が重視されるようになっています。
事例4:カゴメは顧客接点ごとにストーリーを作り出している
カゴメは野菜ジュースを主力商品としていますが、乳酸菌など他ジャンルの健康食費との競争が激化しています。そこでただ商品を販売するのではなく、そもそもなぜ野菜ジュースを飲むことが健康的メリットがあるのか、消費者に理解を深めてもらうことに注力。コアなファン育成のために工場見学体験を実施したり、またスポーツシーンで健康価値のPRをしたりなど、顧客体験全体の流れを俯瞰し、顧客との接点ごとにどのように価値を伝えていくか工夫しているようです。
なぜ今UXデザインなのか?
そもそもUXデザインという言葉は、認知心理学者のドン・ノーマン博士が1988年に出版した「誰のためのデザイン?」で紹介されたのが最初だと言われています。
ですがデジタルの文脈も含め、社会で広く認知されるようになったのはここ数年の出来事。それ以前はUIやユーザビリティに対する注目度が高かったようです。
ここでは、UXデザインが普及するその背景や理由について、4つ紹介していきます。
理由1. きっかけはスマートフォンの爆発的な普及
UXが重視されるようになったきっかけとして重要な出来事は、スマートフォンの登場です。スマホやアプリの普及により、 ユーザーが商品・サービスと接点を持つシチュエーションや購入までの経路が多様化していきました。
スマフォはいつでもどこでもネットに接続することを可能にします。24時間365日繋がっているスマートフォンにより、起床時間や通勤・通学、ランチや夕食のタイミングなど、ユーザー・消費者が企業と繋がれる接点は日常のあらゆるシーンに急激に増加しています。スマフォ普及以前、デスクトップしかなった時代と比較するとその差は歴然です。「Desin in Tech Report」によると、人は5.6秒に1回スマフォをチェックするという統計もあるようです。
またスマフォの普及に伴い、大量のiOSアプリ、Androidアプリが市場に投入されたこともUXを重視するようになった要因です。アップルストアでダウンロードされたアプリの数は220万以上にもなります。使いにくいサービスやアプリだと、ユーザーは気軽にどんどん新しいアプリに乗り換えてしまいます。
従来はユーザービリティの向上が掲げられいましたが、このような状況ではユーザービリティだけではユーザーとサービスの関係を捉えたことにはなりません。サービス全体の体験設計が、つまりWebサイトやアプリの使いやすさ、ユーザーが本当に満足できる体験の提供は、商品・サービスにとって重要な意味を持つようになります。
理由2. 機能で差別化が難しくなっている
近年テクノロジーの進歩や市場の発達、競争の激化などにより、あらゆる商品・サービスでコモディティ化が進行しています。品質が極端に劣っているものや、逆に優れているという差はほとんどなく、品質が安定・標準化され、価格帯も同じように均質化しています。テレビやPCなどを想像すると分かりやすいでしょう。
コモディティ化する市場においては、顧客は質が整ったものから好きな商品を選ぶことができます。技術も均質化し、多くの類似のサービス・製品が市場に投入され競争が激化し、急速に商品の価値が失われていきます。プロダクトのライフサイクルが極端に短命化しているということです。
また商品やサービスがコモディティ化し、消費者がスマートフォンなどでいつでもどこでも情報を入手し比較検討ができる現在では、商品を購入する意思決定やタイミングは、消費者側が全て握ることになります。
機能ではもはや差がつかないからこそ、機能以外での価値創造、そこでしかできない「体験」を重視した付加価値をいかにつくるかが重要となってきているのです。
理由3. IoTなどによるスマート化の浸透
スマートフォンの文脈と被りますが、IoTもUXデザインの重要度を高めている要因です。センサーやプロセッサなどのテクノロジーの進展により、モノのインターネット化(IoT)を取り入れた商品・サービス開発は様々な企業で進んでいます。
2020年にはその数は208億個、調査機関IDCによると2019年にはIoTの世界での市場規模は1兆3000億ドルに達するとの予測もあります。時計などのウェアラブルデバイスや家具など日常的に使うものから、車や住宅、街全体にまでIoTデバイスが普及していくでしょう。
このようなスマート化が進行する世界では、人、モノ、情報が繋がり、それにより得られたデータから新しい価値を創出するチャンスを得ることができます。
これまで企業、特にメーカーは商品を売ってしまえば、そこで顧客との関係性が途切れてしまうことが通常でした。しかし、IoTをはじめとするスマート化が普及すれば、商品購入後も顧客の利用動向を把握し、繋がり続ける関係づくりが可能になります。
だからこそ、いつ、どこで、どのように顧客と繋がり、他社と差別化できる適切なアプローチや施策を打てるかが重要になっているのです。
日々大量の情報やデバイスにふれるユーザーに、いかにサービスや商品と「繋がっていたい」と思えるのか、IoT・スマート化の文脈では顧客のサービス・商品の全体の体験設計が、顧客接点を奪い合う競争を打開する鍵となります。
理由4. スマート化の拡大による価値感のシフト
これまでは全ての消費者・ユーザーに対して、同じ情報や標準化した商品・サービスを提供することが当たり前でした。しかしスマート化の進展により、一人ひとりに合わせたサービスやコンテンツ・情報を、必要なタイミングに合わせて提供することができるようになります。
そのような状況にあっては、個々のユーザーや消費者に合わせて情報やサービスを加工する、カスタマイズ性が価値になります。個人の嗜好や行動のデータを元にした、よりパーソナルでプライベートな体験です。
スマート化する世界では、このようにマスプロダクト、マスサービスの発想から1人ひとりに適した貴重な体験に価値観が移っていくことが予想されます。ユーザーデータから一人ひとりの行動や嗜好性を分析し、複数ある接点から適切なタイミングで適切なサービスを提供することが求められています。
UXデザインは総合格闘技!
いかがでしたでしょうか?ここまでUXの基本的なことや、なぜUXが求められてるのか簡単にまとめてきました。
本質的なUXを実現していくには、人間中心設計や行動経済学、人間工学、認知心理学、感性工学、デザイン、ビジネスデベロップメント、マーケティング、テクノロジー、チームビルディングなど様々な知識や経験を要します。その意味でUXデザインは総合格闘技のようなものかなと思います。
またUXデザインのプロセスは、全てユーザーを知ることから始まります。実際にユーザーや顧客に会い、仮説検証を重ね、サービスやプロダクトを磨いていくおよそ以下の流れを通ります。
ペルソナの策定やカスタマージャーニーマップによって現状把握を行い、ユーザーの利用文脈とユーザー体験の把握を調査を重ね分析。得られたデータをもとにプロトタイピングを作成し、ユーザーテストなどを重ねて軌道修正し、ユーザーが求めているものに近づけていくことになります。
このあたりについての詳細はかなり複雑かつ広範囲に渡るので、また別の機会でまとめていきたいと思います!
最後までお読みいただきありがとうございました!
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参考書籍:
UXデザインの教科書
Web制作者のためのUXデザインをはじめる本 ユーザビリティ評価からカスタマージャーニーマップまで
The Customer Journey 「選ばれるブランド」になる マーケティングの新技法を大解説
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