先日2017年12月7日に、僕が通うデジタルハリウッドで機会があり、UIデザインに特化したデザイン会社「Goodpatch」代表の土屋さんによる「スタートアップから始まるデザイン改革」をテーマにした講演会に参加してきました。
Goodpatchさんと言えば、「Prott」などのプロトタイピングツールも自社で開発していることで有名ですよね。土屋さん自身もデジタルハリウッドの卒業生であり、その繋がりで今回ご登壇いただいたようです。
今回のテーマは、UXとは何か、またスタートアップに求められるUX、という僕としてもかなり興味深い内容でした。ですので、UXに関心がある方、またスタートアップ関係の方に向けて、内容を簡単にシェアしていきます。ぜひ読んでみてくださいね。
Contents
講演概要
近年、海外でデザイン会社の買収が相次いでいますよね?日本でもアクセンチュアがIMJと提携したり、世界的デザイン会社IDEOと博報堂が提携したりと、そうした動きが活発になっているように見えます。
UX/UIの視点がビジネスにとっても不可欠なものとなりつつあり、デザインの立ち位置は大きく変わろうとしています。
今回の講演では、デジタルハリウッド大学院に通っていたこともある、Goodpatch代表取締役 土屋尚史さんが、デザインを取り巻く環境の変化と未来について解説されました。
UI/UXデザイン業界のトレンドや、なぜ今世界的にデザインが求められているのかを理解し、今後デザインに関わっていく上で、身につけるべきスタンスや考え方を紹介していただきました。
そもそもGoodpatchとは?
Goodpatchは、現在東京、ベルリン、台北に拠点を持つUIデザインカンパニーです。「デザインの力を証明する」ことをミッションに掲げており、UIデザインはもちろん、ストラテジー、UI/UX、開発、グロースマーケティングなども一貫して扱われています。
他のデザイン会社との違いとして、
・日本初のグローバルデザインカンパニーであること
・受託だけでなく自社事業もしていること
・UI、UX領域で老舗と実績があること
・領域に特化したチームを持つこと
ex フィンテックに特化したUI、UXチームなど
などがあるようです。
Goodpatchの創業ストーリー
土屋氏は大学時代、白血病と診断され休学した経緯があり、そこがそもそもの起業への出発点であるようでした。無事復学した折、偶然授業で「ベンチャー企業論」を受けた際に、自分の人生に真剣に向き合っているか?今を生きているか?と自問自答する中で起業する選択肢を考えるようになったとのこと。
休学していた土屋氏は、当時卒業まで3年かかるため、すぐ退学しベンチャーで営業を経験、また東京のスタートアップや大阪でWebデザイン会社のディレクターなどで経験を積み、26歳の時デジハリに起業仲間を集めに通われていました。30までに起業することを目標に、IT系のイベントに顔を出し、色々な起業家の話を聞きにいく中で、特に「日本のベンチャーとシリコンバレーのスタートアップは成り立ちが違う」というDeNAの南場さんの話が印象に残ったそう。
シリコンバレーでは色々な人種の人が集まって、サービスを創っていて、最初からグローバル市場で勝つことを狙っている。だからこれから起業する人は日本人だけでなく、多国籍軍を創れ!日本人だけでやっているから、グローバルで絶対勝てない。
という南場さんの言葉が頭を離れず、シリコンバレーに行くという選択肢を取ったのです。出発は2011/3/10、なんと東日本大震災の前日にサンフランシスコに渡ったのです。
シリコンバーで見つけたインサイトとは
2011年当時、スタートアップには大きな波が来ていました。サーバーがAWSなどクラウドベースになり、また数人で大きなサービスを創れる環境が整ってきていました。
また現在グローバルに頭角を表しているスタートアップ企業、例えばUberは当時リムジンが迎えに来るサービスで、インスタは当時は10人くらい、airbnbは30人、Twitterは500人といった規模感だったとのことです。
2011年当時のサンフランシスコでは、毎日のようにスタートアップのイベントがそこら中で開催されていたようで、そうした中土屋氏は
「シリコンバレーのサービスはなぜベータ版なのにこんなにUIが綺麗なのか?」
と疑問に思ったと仰っていました。シリコンバレーの企業は、ユーザー体験を1番に考える、そしてユーザー体験を最大限にするUIを考えるなど、デザインの重要性を認識していました。
サンフランシスコのスタートアップには、創業者にデザイナーがいる場合も多く、ユーザー体験を1番に考え、デザインを重要な差別化要素と認識していたのです。
一方当時の日本では、ユーザーではなく、サービスの作りての意思を優先して考えられていて、機能もつめつめで必要以上に複雑だったり。いずれ日本もUI/UXを重視しないと、サービスが生き残れない・・という危機感を持った土屋氏は、帰国後2011年9月にグッドパッチを創業。
当時28歳、起業半年で共同創業者が離脱し1人になるなど苦労もあったようですが、たまたまシリコンバレーで出会ったグノシーのメンバーの手伝いをしていた折、グノシーが話題になったことがきっかけで事業が軌道に乗り出し、仕事が舞い込むようになったようです。
ビシネスシーンでもこの6年で色々変化が
近年のデザイントレンドとして、
・大企業が相次いでデザインファームを買収
・ユニシスや楽天など大手企業がこぞってUXデザイン関連の部署を設立
・CXOやCDO、CCOなど経営層に食い込むデザイナーが増えた
など、ビジネスの面でもデザインが重要視されるケースが増えてきています。
またUXの文脈では、シリコンバレーだけでなく、中国も台頭してきているようです。デザインも優れたサービスが多いこと、シリコンバレーで実現できないことが中国で実現できるケースもあるようです。
UXデザインの重要性が年々高まる背景とは
UXデザインの重要性が年々高まっているのですが、その背景として、
・産業の成熟化により、サービス・プロダクトの差別化が難しい
・ものに溢れ、選択肢が多い
・ブランド品が欲しいなど、物質的な欲望を持っていない人が増えている
ことが挙げられます。物質的な価値ではなく情緒的価値、ものではなく、ストーリーのある意味的価値が求められるようになってきているのです。
あらゆる種類のビシネスにとって、エクスペリエンスとデザインは優先事項となっていて、それは技術的な革命により本当に多くの面がコモディティ化してきているため。テクノロジーが成熟していきた今だからこそ、体験による差別が必要です。
機能やスペックだけで差別化できない現代では、見た目のデザインではない広義のデザインが重要になってきているのです。
iphone発売からスマフォが爆発的に普及した影響
インターネットが普及するのに時間がかかったが、スマフォは急速に普及していきました。このスマフォの登場で人々の生活が劇的に変わります。
Design in Tech KPCBによると、人々は5.6秒ごとにスマフォをチェックし、1日に平均150回アンロックするとのこと。h人々はありとあらゆる場所で、そのシーンで必要な情報を集めコミュニケーションを取ります。スマートフォンは、固定の位置で座って使うPCに代わり、ユーザーに最も近いデバイスになったのです。
だからこそ、ユーザーシーンにあったサービスを考える必要があり、そのためにUXを踏まえることが重要になってきているのです。UIデザインよりUXデザインへの関心度が高まり、世界ではUXデザイナーが求められています。
デザイン思考とUX/UIデザイン
デザイン思考は課題を発見し解決するプロセスそのもの。ユーザー観察から潜在的なユーザー課題を見つけ出し、プロトタイピングを繰り返しながら発展していきます。
UXデザインはユーザーとの全ての接点における体験の設計をします。プロダクトだけでなく、カスタマーサポート、マーケティング含めデジタルではない領域とデジタルの領域全てを横断する概念です。
UIデザインはUXの中でも、ビジュアル、情報設計、インタフェースなどソフトウェア周りのデザインを指します。
スタートアップこそUXデザインを!
UXデザインは新規サービスや新規事業に、新しい体験価値を設計する際に有効です。土屋氏は、しがらみがないスタートアップはUXデザインをいち早く取り入れやすい!と指摘します。大企業だと既存のプロセスを見直し、ゼロからプロセスを組み入れるのが難しいからこそ、スタートアップは率先してUXデザインに取り組むべきです。
アメリカではスタートアップがUXを体現してきました。例えばUberは高級なリムジン配車サービスからスタートしたことで、サービス当初から高級で高品質なイメージをユーザーに与えてきました。ユーザー体験の中では、既に良いイメージを醸成することに成功していたのです。
またAirbnbの創業メンバーは地道にユーザーに会いに行き、ユーザーの潜在課題や不安を取り除きながらサービスを拡大していきました。初期での大きなユーザー体験の改善ポイントは、写真をプロに撮影してもらうことで、それで売上が2倍になったそう。また全てのユーザーに、なぜこのサービスが使われないか?を聞き出すユーザー調査など地道に繰り返していきました。
土屋氏はAirbnbの革新的UXのポイントとして、
(1)見ず知らずのホストとゲストの信頼のデザイン
(2)ホテルよりも安く泊まれる
(3)ホテルのような画一的な部屋ではなく、1つ1つがオンリーワンでオリジナリティのある部屋
という点を挙げています。またAirbnbが、宿泊先のレビュー数が10以上あればユーザーが情報を信頼する、というデータを分析から見出し、早く口コミが10以上集めるように実効するなど、どの項目を改善すればユーザー体験が改善するのかそのトリガーを発見することも重要です。
良いUXのプロダクトは、良い体験をしたユーザーが他のユーザーを誘い入れ、企業のエンゲージメントを高めることに寄与します。
良いUXはユーザーの課題も、企業の課題(マーケティング・ブランディングの面)も同時に解決する。だからとにかくプロダクトを磨け!という言葉が印象に残りました。
また中国の事例では「Mobike」も参考になるとのこと。とにかく無駄を削ぎ落とし、徹底的にユーザーの声を聞き、テクノロジーとデザインで課題を解決してく、そうした姿勢がUXデザインでは求められます。
世界で求められるデザイン人材とは
海外のビジネススクールでもデザインシンキングは必須の分野になりつつあります。一方で既存のデザイン教育と、実践で求められるデザイン教育にはギャップがあるようで、「THE Design Education GAP」によれば、デザイナーにファイナンスとビジネスを理解して欲しい、という声も大きいとのこと。
アメリカのマーケットではデザイナーが圧倒的に求められているが、日本でもスタートアップではユーザー体験、デザインに責任を持つことが重要です。
また土屋氏はWiredで取り上げられた記事「UXデザインを学ぶ「現代の専門学校」、そのカリキュラム」を引用して、UXデザイナーの必要性を説きました。以下Wiredの記事より引用。
いま、米国の採用担当たちはUXデザイナーを求めている。それだけ、企業におけるデジタル分野の存在感が大きくなっているのだ。ウェブサイトの画面の動き、モバイル表示でのボタンの配置、各言語での明瞭さと読みやすさ──こうしたことがすべて、ブランドのユーザー体験と商品に影響する。これらの改善に取り組むことで、ユーザー体験 をできる限り快適にするのが、UXデザイナーの仕事だ。
この分野は急速に成長・進化しており、それに伴って専門家の需要も右肩上がりになっている。「10年前はUXデザインが何なのかさえ誰も知りませんでした。5年前であっても、きちんと説明するのは難しかったでしょう」と、サヴァンナ芸術工科大学の副学長、ジョン・ポール・ローワンは言う。
しかしいまは違う。コーディングと同様に、UXデザインはデジタルの要素をもつどの企業にとっても不可欠なものとなった。Adobeが500部門のリーダーたちを対象に行った調査からは、その大多数がUXデザイナーの数をこの先5年で2倍に増やそうと考えていることがわかった。
日本のデザイン・マネジメント人材の課題
日本のデジタル領域の課題として、デザイナーのスキルセットの偏りが挙げられます。土屋氏が指摘するのは以下の6点
(2)綺麗なものを創れればいいと思っている
(3)コミュニケーションスキルが低い!圧倒的な課題!
(4)デザインの意図とプロセスの軽視
(5)プログラミングへの苦手意識
(6)ビジネスへの理解のなさ
特にデザイナーのコミュニケーションスキルについては課題が多いそう。デザインの本質はコミュニケーションで、ユーザーの何を解決するか?は、ユーザーヒアリングなどを通じてインサイトを抜き出すことが大切です。それは結局コミュニケーション能力が肝。
デザイナーの面接でも、聞きたいこととは違うことが返ってきたり。何を聞きたいのか?相手が何を求めているのか質問をするなど、コミュニケーションスキルが低いデザイナーが多いことを指摘されていました。
またプロセスの面では、なぜこの色になるのか?その本質を考えていないデザイナーも多いそう。プロセスよりもアウトプットを重視してしまうので、プロセスをより考えることを大切にすべきとのこと。
ビジネスの現場でも求められるデザイナー像として、実際のビジネスの現場では、上記の6つのポイントとは逆の人材が求められています。
Takram代表の田川氏によれば、BTC人材、つまりビジネス、クリエイティブ、テクノロジーができる人材が競争力を持てます。これからのデザイナーは、戦略からプロダクトづくりに関われる人が求められるのです。
日本全体の問題としては、日本に根強い「デザイン価値の誤解」も存在すると土屋氏は指摘します。例えばくまモンデザイナーにロゴ制作を発注する際に、提示された金額である540万が高過ぎる、30万円が適切と訴訟されたなど、デザインに対する価値が世間一般では理解されていないことがあります。
また日本のデザイン業界の経済規模は小さく、一方でアメリカは日本の6倍ほど大きいです。デザインへの投資額は、主要先進国と比較し、日本はかなり劣ります。そうした中で日本では優秀な人がデザイナーをなりたがらない、という構造的な問題を解決していく必要を感じているようでした。
質疑応答
ここでは質疑応答ででた質問と回答をいくつか絞ってご紹介します。
デザインを学ぶのにオススメの本は?
→ 細谷功著の、
・地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」
・メタ思考トレーニング
・「WHY型思考」が仕事を変える
がオススメ。デザイナーは具体的な事象から分解して抽象化する力が重要。一見違うことも抽象化し、ビシネスやデザインに応用できる力。具体化と抽象を行き来ができる人はビジネスシーンで重要となる。
・論理と情緒(人の心を動かす、人はロジックではなく主観で動く、そこをつく)
・定量と定性
そのことなる思考を行き来できる速さが求められる。その点でオススメの本は以下。
・インベスターZ(マンガ)
・デザイン・マネジメント
・Think Simple
・ジョナサン・アイブ
良しとされるUXは?
→ 良いUXはどんなサービスかによる。正解はない。
UXデザイナーになるには?
→ UXデザインに関しては、世界的に体系的に学べる学校がない。
・7-8割の人は独学
・アカデミックで再現できるまで、UXの事例が少ない。
実践ベースで企業が現場でノウハウや知見をつくっていくことが今重要。
アメリアでの先端の事例を引っ張るなど、情報を意識的に集めるべし。
UXを明日から導入するには?
→ Googleベンチャーズでデザインスプリントを2週間とかでやる。
フレームワーク化されたものを試してみる。
→ あとはとにかくユーザーに会い、ユーザーの声を聞きに行くこと!
いかに情報をキャッチアップするか?
→ 呼吸をするように情報を集める
常にアップデートしていく!体系化された知識も陳腐化されてしまうので、臨機応変に。
こんなに変化が激しい業界はIT業界以外ない。だから変化とキャッチアップを楽しむ!
→ Twitterが情報収集するなら一番いい!起業家の声を生で聞くことができる。
→ 世の中で流行っているサービスはとにかく体験しろ!やらないのは有り得ない。
まとめ
いかがでしたか?UXデザインの重要性やその背景、スタートアップとUX、また今後のデザイナーに求められることなど幅広い内容で大変勉強になりました。UXというとなかなか共通の理解がもてなかったり、なぜそれが重要なのか理解してもらえなかったりと、現場でUXデザインを実践しようとするとハードルもあったりします。今回のイベントレポートが何かみなさんの参考になってくれれば幸いです。土屋さん、今回はご講演いただきありがとうございました!
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